青春を目撃

ある花火大会の帰り道、川沿いの土手から駅まで続く真っ直ぐで長い道のりをひたすら歩き続ける道すがら、ある青春が目の前に巻き起こった。
目の前には小学6年生?くらいの男の子が2人。なにやら後方の人と大声で話しているようなので振り返ると道の脇に固まる浴衣姿の数人の女子。
「いや、なんも話す事ねーって」
男子2人は恐らくその女子たちのところに戻るかどうか、ゆるく前に進みながらも話し合っている。
大勢の人が波のように後ろから押し寄せる中、意思を持って後ろに歩き出さなければ歩くのを止めることはできない。
がんばれよ!と(私が)(心の中で)応援するも、彼らは進む。
「いや、だから話すことねぇって」

ポトン、と線香花火の最後の雫が落ちてしまったような思いがした。彼らは振り向くのをやめて前に歩きだしてしまった。
夏休みの夜の青春。さらば。

そう思ってまた少し歩くと、しきりに「話すことがない」と主張していた右側の少年が突然思い切り振り返って大声を出した。
「待って橋本がなんか言ってる!!」
橋本がなんか言ってる!!と言って後ろに向かって走り出した。
さっきまで燻って落ちていった線香花火とは比べ物にならない打ち上げ花火のような爆発力だった。

「橋本は多分何も言ってない」
一部始終を見守る私。
でもいいんだ、よかった。
あの沈黙の数歩の中で彼の中の何かが決意をしたのだから。
よい夏休みを。